TEDIUMなるままに

徒然なるままに...を略すと tedium という英単語が出てきました.日本語の持つ「徒然なる」ニュアンスを表現できているとは思えないが,これをブログのタイトルにさせてもらいます.日常思ったことや紹介したいものなどがあれば,どんどん発信していこうと思う('ω')

「風の歌を聴け」と「死」

風の歌を聴け」を5年ぶりくらいに読んだので感想を書く. 僕が読んだのは文庫本で2010年3月24日出版の第25版だったので,5年ぶりというのはおそらく当たっていると思う.

あとがきを見ると1979年5月,とのことなので30年も前の本だが古さは全く感じさせない. 僕のことをまず言っておくと,村上春樹の本だが,有名どころは一通り読んだ.「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」は読んでいてクラクラするくらい衝撃を受け,今でも大好きな作品だし,「ノルウェイの森」は読んでいてちんぷんかんぷんであまり心を動かされなかった*1. そういった意味では,盲目的に村上作品を推す気もないが,個人的には彼の文章は好きな部類である,というのが僕の村上作品に対する姿勢である.

この作品は,文庫版ではページ数は150Pちょいでサッと読める.人物があまり紹介されないまま話が進んだり,時間軸がフッと飛んだりするので読んでいてモヤモヤすることもあるが,話全体としてはちゃんと追えているのでどんどんページを進める事ができる.

僕が好きなシーンは,話の中で登場する架空の著書「火星と井戸」のワンシーンである.ある青年は火星をさまよっているのだが,さまよっているうちに何か違和感を感じる.すると「風」が話しかけてくる.「実は,太陽が死にかけている」と.この掛け合いは,ぜひ本書を読んで欲しいのだが,僕はここを読むと,いわゆる "宇宙の熱的死" を思い出してしまう.宇宙の熱的死といえば,宇宙は最終的に全ての空間で何も変化が起きない状態,つまり熱的平衡が起こってしまい,これが宇宙の最終状態である,というもので僕は個人的にかなり虚しくなってしまうのであまり考えたくない仮説でもある.そう,読んだ方はお分かりになると思うがこの作品の中には時折,「死」について話すシーンが出てくる.

多くの人間は,死を自分と関わる問題としてなるべく考えたくないし,もっと言えば考えても仕方が無いことなのであまり考えようとしない.そういった中で,この作品では,軽快な文章のリズムや登場人物の機知に富んだ言い回しなどを楽しんでいると フッと 死について考えさせられてしまう.そして,次のページではそんなことお構いなしでまた軽快に話が進んで行く.その感じが,"読んでいて非常に不思議な体験をさせてもらえる" .今回は5年ぶりに再読したが,また5年後も読んでみよう,と思った.少し長くなりましたが,もし読んだことがない方がいれば,手に取ってペラペラしてみるのをおすすめします!

*1:これも読んだのはかなり前なので,今読み直せば違った感想を持つかもしれない...